兼業など複数就労を認めるときの留意点
(1)兼業への制約
多くの企業では、従業員の兼業や二重就労について、禁止する等の制約を設けています。
まず①兼業により従業員の就労が不完全または不能となるおそれがありますし、②競業避止義務(本業の勤務先の利益を侵害するような就労や営業を避ける義務)や秘密保持義務に違反するケースも考えられるためです。
このほか③本業の社会的信用や名誉を損なうような複数就労に対しても、制約を設けることが適当といえるでしょう。
(2)兼業を認める企業も
昨年12月に東京商工会議所が発表した調査結果によると、東京23区の中小企業783社のうち、従業員の兼業・副業を認めている会社は31.6%に及ぶとのことでした。
これらの企業のうち、積極的に兼業等を推進している企業は15.4%、やむを得ず認めている企業は16.2%とのことでした。
一方、現在も将来的にも兼業等を認めないとする企業は43%と最多で、従業員の長時間労働や機密漏えいなどが懸念されています。
もし、従業員の兼業等を認めるのでしたら、①本業の所定時間の勤務を前提としたうえで十分な休息時間を確保できるのか、②競業避止義務や秘密保持義務に抵触するおそれのある就労や営業でないか、③本業の社会的信用等を損なうおそれがないかといった観点から、慎重な対応が求められます。
(3)複数就労と通勤災害
10年ほど前に労災保険法の改正があり、複数就労している従業員が異なる職場の間を移動している際の転倒等による災害は、通勤災害と同様の条件をみたせば、労災保険が適用されるようになっています。
この場合は移動先で労災保険の事務手続きを行い、移動先の賃金実績のみにより保険給付の額が決定されます。
(4)複数就労の割増賃金は誰が支払うのか
労働基準法38条には「労働時間は、異なる事業場で労働する場合も、個人別に通算する」旨が規定されています。
たとえば1日に2つの職場で働くパートタイマーが、早朝からA社で4時間働き、夕方から夜までさらにB社で5時間働くようなケースでは、1日の労働時間は通算で8時間を超え、法定時間外の労働が発生します。
このような場合、割増賃金を支払うのは、当日の勤務の順序に関わらず、「1日の勤務が法定労働時間を超えてしまう労働契約を締結した使用者」とされています。B社が先に雇っていたのであれば、割増賃金の支払い義務はあとから雇い入れたA社にあることになるわけです。
ただし、A社もB社も所定労働時間が4時間であるような場合で、両社どちらかが(ほかでの労働時間を知りながら)時間外の勤務を命じたときには、雇い入れの順序や1日の勤務の順序に関係なく、時間外勤務を命じた使用者が割増賃金の支払い義務を負います。