社会保険の対象外(適用除外)となる人と現在検討されている拡大案
健康保険、厚生年金保険の制度では、一部の人々は制度の対象外として適用を除外されており、被保険者となることができません。
一方、政府は現在、短時間労働者への強制適用のさらなる拡大等、様々な対象拡大策を検討しています。。
今回は現在の社会保険の加入基準(適用除外の制度)をまとめました。政府が来年の通常国会への提出を検討している拡大案についてもご紹介します。
今後の労務管理のご参考になれば幸いです。
1.社会保険の適用事業所
社会保険(健康保険、厚生年金保険)は会社等、事業所単位で適用されます。
法人事業所と、常時使用される労働者が5名以上いる個人の事業所(法定16業種 ※)は強制的に適用事業所になります。
それ以外の事業所も、従業員の半数以上が適用事業所となることに同意し、事業主が申請して厚労大臣の認可を受けることで適用事業所になることができます。
※個人の事業所で適用の対象外となる「法定16業種以外の」業種…「農林水産業」「娯楽業」「法務業」「宗教業」「洗濯・理容・美容・浴場・飲食業」等
2.社会保険の被保険者となる人
適用事業所で常時使用される人は強制的に被保険者になります。国籍、身分、報酬額等は問われません。※
「常時使用される」とは、常時、適用事業所で働き、対価として給与や報酬を得るという関係にあることをいいます。試用期間中でも報酬が支払われる場合は常時使用される人として被保険者となります。
※厚生年金保険は70歳未満が対象。また健康保険は75歳以降は後期高齢者医療制度に加入します。
3.社会保険被保険者となる人(パート等)
適用事業所で働くパート・アルバイト等で、「週の所定労働時間数と月の所定労働日数が同じ適用事業所で同様の業務に従事している一般社員の4分の3以上の人」は被保険者となります。
また、上記「4分の3以上」の条件に満たないパート・アルバイト等でも、下記の5つの要件を満たす人は被保険者となります。
- 週の所定労働時間が20時間以上ある
- 雇用期間が1年以上見込まれる
- 賃金の月額が8.8万円以上である
- 学生でない
- 被保険者数501人以上の企業に勤めている
この他、上記⑤の要件に満たない被保険者数500人以下の適用事業所に勤務するパート・アルバイト等であっても、事業所が下記のア・イのいずれかに該当する場合には被保険者となります。
ア 労使合意により申し出る法人・個人の事業所
イ 地方公共団体の事業所
4.社会保険被保険者とされない人(適用除外)
社会保険の適用が除外される人は下記のとおり定められています。
【健康保険の適用除外】
- 船員保険の被保険者
- 日々雇い入れられる者(1ヶ月を超えて引き続き雇用されるときはその日から適用)
- 2ヶ月以内の期間を定めて使用される者(その期間を超えて雇用される時はその日から適用)
- 事業所または事業で所在地が一定でないものに使用される者(適用の余地なし)
- 季節的業務(4ヶ月以内)に使用される者(継続して4ヶ月超の予定で使用される時は当初から適用)
- 臨時的事業(6ヶ月以内)の事業所に使用される者(継続して6ヶ月超の予定で使用される時は当初から適用)
- 国民健康保険組合の事業所に使用される者
- 後期高齢者医療の被保険者
- 保険者または共済組合の承認を得た者
【厚生年金保険の適用除外】
- 公務員、共済組合員、私立学校教職員共済制度の加入者
- 日々雇い入れられる者(1ヶ月を超えて引き続き雇用されるときはその日から適用)
- 2ヶ月以内の期間を定めて使用される者(その期間を超えて雇用される時はその日から適用)
- 事業所または事業で所在地が一定でないものに使用される者(適用の余地なし)
- 季節的業務(4ヶ月以内)に使用される者(継続して4ヶ月超の予定で使用される時は当初から適用)
- 臨時的事業(6ヶ月以内)の事業所に使用される者(継続して6ヶ月超の予定で使用される時は当初から適用)
5.パート・アルバイト等へのさらなる適用拡大案
報道によれば、政府はパート・アルバイト等、短時間労働者への社会保険の適用について、企業規模に関する要件を緩和する案を検討しているとのことです。
具体的には、2022年(令和4年)に被保険者数101人以上、2024年(令和6年)に同じく51人以上にまで要件を引き下げ、対象を拡大する想定とのことで、来年の通常国会での法改正を想定しているとのことです。
6.短期契約の社員の適用除外要件の見直し案
現在、社会保険では、「2ヶ月以内の期間を定めて使用される者」については適用を除外し、当初定めた期間を超えて引き続き使用される場合にその日から被保険者とすることとしています。
政府はこの要件を見直し、「2ヶ月以内の期間を定めて使用されることが見込まれる者」については当初から被保険者とする案を検討しています。
パート・アルバイト等への適用拡大案と同時期の施行が想定されており、来年の通常国会での法改正を目指しているようです。
7.士業(法務業)の個人事業所への強制適用の拡大案
現在、社会保険では、常時5人以上使用する個人の事業所であっても、法定の16業種以外の業種は強制適用の対象外とされています。
政府はこの対象外の業種のうち、「弁護士、公認会計士、社会保険労務士、税理士等の士業の個人の事業所」について、常時5人以上を雇用する場合には社会保険の強制適用事業所とするよう、検討しています。
適用拡大の要件緩和と短期契約の社員への強制適用と同じく、来年の通常国会への改正法案の提出を目指しているとのことです。