「やさしい(易しい)日本語」の就業規則

(1)就業規則の効能

 就業規則は、職場の『労働条件』『服務規律』『人事』について定めるもので、従業員個人との間の労働契約の一部となり、組織的な労務管理の根拠となります。

 職場内でしっかりと周知し、日常的に運用していくことで、経営側、従業員側の行き違いが少なくなり、トラブルを未然に防ぐことができます。

 また職場ルールには就業規則に定めることで初めて有効と認められる仕組みも少なくありません。

 たとえば「制裁」の制度は、組織を運営する上では大変重要ですが、実際に懲戒処分を行うためには就業規則に根拠となる規定があることが前提とされています。

 人手不足や少子高齢化など、職場をとりまく雇用環境は大きく変わりつつあります。同時に職場の人員構成も複雑化し、高年齢者、外国人、非常勤、在宅勤務など、様々なバックグラウンドをもつ従業員が多様な労働条件で働くようになっています。

 ①妥当な内容の就業規則を、②正当な手続きにより作成して届出、③しっかりと職場で周知し、日常的に運用していくことで、職場の労務管理の正当性を確保し、定着促進や人材育成につなげていきたいものです。

(2)周知しなければ無効

 労働契約法では、合理的な内容を定めた就業規則を職場に周知させていれば、労働契約として有効であるとしています。

 また労働基準法では、労働契約の締結の際、賃金や勤務時間等、労働条件を書面で労働者本人に明示しなければならないと義務付けているほか、就業規則等の労働者への周知を義務付けています。

 過去には、就業規則は「トラブルの種になるので鍵のかかる書庫や金庫にしまっていた」といった事業場もあったようですが、このような運用方法では、規則に定めた職場ルールの効力は認められません。

(3)易しい条文の就業規則を用意する

 近年、職場では雇用形態が多様化し、多国籍化も進みつつあります。人口減少により、人手不足が一層深刻化する見込みです。

 また政府の取り組みもあり、労働法令による規制も厳格化・複雑化する傾向にあります。

 今後は、様々な形態で働く従業員一人ひとりに職場ルールを周知徹底していくことが、労務管理の前提となるものと思われます。

 労務管理上の対応としては、①雇用形態別に細分化した就業規則(と雇用契約書など)を作成する、②母国語や「わかり易い英語」に翻訳した就業規則を用意する、③就業規則の条文を極力、「やさしい日本語」に置き換える、または同様の要約版を用意する、等の方法が考えられます。

 このうち「やさしい日本語」とは、阪神大震災をきっかけに考案されたもので、外国人にもわかり易いよう「主語と述語を明確に/二重否定や受け身・敬語等を使わない/漢字にルビを振る/1文ずつゆっくり話す」といったルールがあります。

 「わかり易い英語(プレーン・イングリッシュ)」の考え方も同様の考えに基づいており、条文を見直す参考になります。

 職場ルールは就業規則だけでなく、労使協定、個別の雇用契約書、各種の誓約書、各種申請書の集合体です。

 今後は、就業規則の見直しや作成の際には、ルールの内容はもちろん、全体の構成、言い回し、用語の使い方等も含めて検討されることをお勧めします。