労災にともなう使用者の責任と発生時の調査、再発防止対策について
労災保険給付を受けた後、所轄の労働基準監督署から「再発防止対策書」や「転倒災害の再発防止のための自主点検等報告書」の提出を求められるケースがあります。
今回の事務所ニュースでは、「労災にともなう使用者の責任」「労災発生時の調査」「再発防止対策」についてまとめました。
【労働災害にともなう使用者の責任】
「労災」=労働災害とは、労働者が仕事に関連して負傷したり、病気になったり、死亡したりすることをいい、大きく「業務災害」と「通勤災害」の2種類があります。
労災が発生した場合、使用者(会社、事業主等)には労働基準法により、過失の有無に関わらず、一定の補償を行うことが義務付けられています。(労災保険により給付を受けられる部分は免除されます。)
また労働契約にともなう「安全配慮義務」違反や、不法行為として被災者から民事賠償を求められることもあります。
この場合、賠償額は「被災しなければ本人が得られた利益(逸失利益)や慰謝料等」から、「過失相殺があるときは相殺額・労災等から給付がある場合は給付額」を除いた額となります。
この他、事案によっては刑事的な責任が発生することもあります。
【監督署からの行政指導等】
労災をきっかけとして、監督署が行政指導を行ったり、再発防止対策等の提出を求めることもあります。
行政指導の主な目的は「災害原因の把握」と「再発防止」で、法違反があったときは「是正勧告書」が、再発防止等に必要な安全衛生に関する指導事項があるときは「指導票」が使用者に交付されます。
使用者はこの場合、指定された期日までに法違反を改善し、是正報告書を提出するよう求められます。
【労災発生時の原因調査の重要性】
労災が発生すると、以上のような様々な責任が発生します。また労災保険給付の申請事務や、労働基
準監督署への事故状況の報告事務も当然に発生します。
使用者としては労災の客観的な状況を把握し、発生原因を的確に把握しておくことが求められます。
このため調査、聴き取りは災害後できるだけ早く行うことが望ましいです。
【労災発生時に調査する事項】
労災が発生したときには、保険給付の申請事務のため、下記のように災害発生の状況を確認する必要があります。
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- 被災した日時
- 場所
- どのような作業をしていたか
- どのような物または環境に
- どのような不安全または有害な状態があって
- どのような災害が発生したか
調査の際には下記の様に具体的な事実関係を確認し、記録されることをお勧めします。
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- 事故に関連する物などの重さ、高さ、サイズ、材質、形状、位置関係、高低差、距離、段差の有無
- 作業の頻度、所要時間、継続性、他の作業者との関係
- 事故に関連する本人の健康状態、既往歴、持病、保護具装着の有無
- 事故について本人の故意や重大な過失(ほとんど故意に近い注意欠如)、または過失の有無とその内容
【労災発生原因の調査】
労災の再発を防止するためには、なぜ労災が発生したのか、原因を調べることも重要です。
労働災害発生の直接的な原因は次の二つに分けられます。
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- 「機械設備等の不安全な状態」等の物的な原因
- 「労働者の不安全な行動」等の人的な原因
また不安全な状態や不安全な行動を生じさせた間接的な原因として c.「安全管理面の不備・欠陥」 があるものと考えられます。
原因の調査にあたっては、ab(前の項目の1~6、ⅰ~ⅳの項目)だけでなく、間接的な原因である c(労働者が不安全行動を行った場合、なぜ不安全行動を行ったのか)を調査することも重要です。
具体的な調査項目としては「管理体制」「企業風土」「作業方法」「人員配置」「教育体制」等が挙げられます。
【再発防止対策の検討と実施、周知徹底】
労災の再発を防止するためには、災害原因の調査を踏まえて、どうすればその原因をとりのぞき、労災を防止できるのかを検討し、実施します。
再発防止対策を実施する際には、一連の調査、検討結果について文書化し、社内の関係部署に周知徹底することが望ましいです。
※本記事の作成にあたっては、書籍「安全衛生対策の立て方と是正勧告への対応」杉浦純 著(労働新聞社2014年)と、労働局等のサイトの情報を参考にしました。