業務中・通勤中の交通事故と労災 ~特別支給金は調整されません~

従業員が業務中(通勤中)に自動車事故にあい、亡くなったり、負傷した場合に、業務災害(通勤災害)と認定されると、労災保険の給付対象になります。

一方、交通事故の被害者は加害者に対して民法上の損害賠償を請求でき、自動車損害賠償責任保険等の保険金や共済金を受けることができます。

これらの保険給付と保険金等には、療養費や休業による賃金の喪失分など重なる部分がありますので、実際の損害以上に給付を受けることになってしまいます。

労災保険ではこのような重複のないよう、保険給付の求償・控除を行って調整しています。

今回はこの調整と、調整の対象外となる「特別支給金」についてご紹介します。

1.労災保険給付の調整

労災保険の保険関係の当事者は「政府、事業主、保険給付の受給権者」ですので、交通事故など当事者以外の者(第三者=加害者)の行為による災害は、「第三者行為災害」と呼ばれ、保険給付は下記のように調整されます。

【求償】

労災保険から先に給付を受けたときは、政府は給付額を加害者に請求する。

【控除】

加害者から先に民事上の損害賠償を受けたときは、労災保険の給付額からすでに受けた額を控除して差額を給付する。

【調整される項目】

「治療費」「休業中の賃金喪失分」「残存障害による将来の賃金喪失分」「介護費用」「死亡による将来の賃金喪失分のうち受給権者の相続分に相当する額」「葬祭料」など

【調整される期間】

平成25年4月以降の災害については、災害発生後「7年」以内に支給事由が発生した労災給付で、同期間内に支払うべきものは「控除」の対象になります(平成25年3月以前は「3年」でした)。「求償」については、3年間となっています。

※示談と保険給付

被災者と加害者の間で、被災者側が受け取るすべての損害賠償についての示談が真正に成立した場合、政府は原則として示談成立以降の保険給付を行いません。

2.自賠責保険等との関係

自賠責保険等の保険金等は加害者の損害賠償を肩代わりするものですので、労災保険の保険給付は「求償」「控除」により調整されます。

このようなケースでは、原則として自賠責保険等を先行することとされていますが、被災労働者が希望するときは、労災保険の給付を先に受けることもできます。

一般的には次の理由から自賠責保険等から支払を受けるケースが多いようです。

・自賠責保険等には仮渡金制度があり、支払が早い。

・休業損害について、自賠責保険等では休業初日から100%填補される。労災では休業3日まで支給されず、4日以降も60%にとどまる(このほか、どちらも調整対象外の休業特別支給金20%を申請できる)。

・自賠責には慰謝料があり、療養費の範囲も広い。

 自賠責保険等を先行した場合、引き続いて任意保険による支払を受けるか、労災保険による支払を受けるかについても同様に選ぶことができます。

 なお「自賠責保険等には保険金支払限度額があること」「労災保険には過失割合による減額の仕組みがないこと」など考慮し、労災保険を先行するケースもあります。

 この場合は同一の事由により自賠責保険等からの支払を受けることができません。

3.特別支給金は調整されない

 労災保険が行う社会復帰促進事業により支給される特別支給金は、保険給付でないため調整の対象外です。 自賠責保険等を先行した場合も特別支給金だけを申請することができます。

 ただしこの場合、「診療担当者の証明」については労災の給付の対象とならないため、証明料は被災者の自己負担となります。ご留意ください。

 休業特別支給金の時効は2年、その他の特別支給金は5年となっており、この期間中に申請する必要があります。

【特別支給金の種類】

休業特別支給金 … 業務災害、通勤災害による療養により労働できないため賃金を受けない日が4日以上に及ぶとき、1日につき法定平均賃金の20%

・その他、次の8種類の特別支給金があります。 … 傷病特別支給金・障害特別支給金・遺族特別支給金、傷病特別年金・障害特別年金・遺族特別年金、障害特別一時金・遺族特別一時金