テレワークなど事業場外の勤務の労働時間の管理 ~事業場外みなし労働時間制の概要~ 

 2020年春の緊急事態宣言を受けて、多くの職場で在宅勤務、サテライトオフィス、モバイル勤務等のテレワークが導入されました。

 こうした中、厚労省では同年8月以降、有識者による「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」を開催し、同12月25日に報告書をまとめ、公表しています。

 厚労省 ではこの報告を踏まえ、2018年3月公表の「テレワークガイドライン(情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン)」を見直すとのことです。

 同ガイドラインはテレワークの「労働時間の管理」に関する内容が中心となっており、テレワークになじみやすい労働時間制度として、「フレックスタイム制度」と「事業場 外労働のみなし労働時間制」を挙げていました。報告書では、使用者、労働者双方にわかりやすいよう、「具体的な考え方をガイドラインで明確化する」ことを求めています 。

 今回はこの2つの労働時間制のうち、後者の「事業場外労働のみなし労働時間制」について、導入の条件や運用の実務を記事にまとめました。

(同ガイドラインと東京労働局のパンフレット『「事業場外労働に関するみなし労働時間制」の適正な運用のために』を参考にしています。どちらもウエブで閲覧可能です。 )

 

ア.「事業場外労働のみなし労働時間制」とは

 この制度は、労働基準法第38条の2の定めにもとづくもので、労働者が「業務の全部または一部」を事業場の外で従事し、「使用者の指揮監督がおよばないために労働時間の算定が難しい」場合、使用者(会社等)の労働時間の算定義務を免除し、事業場の外での労働については「特定の時間」勤務したものとみなす制度です。

 

イ.対象となる業務・対象にできない業務

 事業場外で業務に従事し、使用者の具体的な指揮監督がおよばず、労働時間の算定が困難な業務が対象となります。

 次のような業務は労働時間の算定が可能として、適用できないとされています。

      1. 何人かのグループで従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
      2. 「無線やポケットベル等」によって随時、使用者の指示を受けてながら勤務している場合
      3. 事業場で「訪問先」「帰社時刻」等、当日の業務の具体的指示を受けた後、事業場外で指示通り業務に従事し、その後事業場に戻る場合

 ガイドラインでは、テレワークでの「事業場外労働のみなし労働時間制」導入について、「使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難」というためには(=同制度を適用するためには)次の要件をすべて満たす必要がある、としています。

①情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。

 「情報通信機器を通じた使用者の指示に即応する義務がない状態」であること。(「使用者の指示」には黙示=事実上の指示が含まれる。)「使用者の指示に即応する義務がない状態」とは、「使用者が労働者に対して情報通信機器を用いて随時具体的指示を行うことが可能で、なおかつ、使用者からの具体的な指示に備えて待機しつつ実作業を行っている状態または手待ち状態でないこと」を指す。

 たとえば「回線が接続されているだけで、労働者が自由に情報通信機器から離れることや通信可能な状態を切断することが認められている場合」「会社支給の携帯電話を所持していても、労働者の即応の義務が課されていないことが明らかな場合」等は使用者の指示に即応する義務がない場合にあたる。
 

②当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと。

 「具体的な指示」には、例えば「当該業務の目的・目標・期限等の基本的事項を指示すること」「基本的事項について所用の変更の指示をすること」は含まれない。

 

ウ.「事業場外労働のみなし労働時間制」の労働時間の算定方法

 この制度が適用される事業場外の業務に従事したときの労働時間の算定には、次の3つの方法があります。

      1. 所定の労働時間とする
      2. その業務遂行に上記1.を超えて労働することが必要な場合には、その業務の遂行に通常必要とされる時間(「通常必要時間」)
      3. 上記2.の場合で労使協定を締結したとき、協定に定める時間

 上記2.と3.については、その事業場外の業務に実際に必要とされる時間を平均した時間となります。突発的に行われるものを除き、常態として行われる場合は、労使協定を結ぶことが望ましいとされています。

 また、上記2.と3.については、業務の一部を事業場内で従事した場合は、事業場内の労働時間と事業場外の業務に通常必要とされる時間を合計した時間数となります。

【労働日の労働時間の一部が算定困難な事業場外労働のときの基本的な算定方法】

      • 「所定労働時間≧通常必要時間+事業場内の労働時間」のときは、「所定の労働時間」とみなします。
      • 「所定労働時間<通常必要時間+事業場内の労働時間」のときは、「通常必要時間+事業場内の労働時間」とみなします。

 たとえば「午前9時始業・午後6時終業(所定労働時間8時間)で休憩時間が正午から1時間」のとき、午前8時から勤務し、午後から通常必要時間3時間の事業場外の勤務に従事した場合、午前の勤務時間数4時間と午後の通常必要時間3時間の合計は所定労働時間以内のため、所定労働時間8時間を労働したものとみなします。

 

エ.「事業場外労働に関する労使協定」と労基署への届出

 事業場外の業務で労働時間の算定が困難で、通常、所定労働時間を超えて労働することが必要である場合、「通常必要時間」を労使協定により定めることができます。協定の内容は、①対象とする業務、②みなし労働時間、③有効期間です。

 協定で定める事業場外のみなし労働時間が法定労働時間(1日8時間)を超える場合は、労使協定を様式第12号により所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。

 届出は、様式第9号の2「時間外労働・休日労働に関する協定届」に付記することも可能です。(記入欄がわかりにくいですが、同様式1枚目の裏の解説の右下の「備考」を 参考にしてください。)