割増賃金の計算方法~実務上の留意点~
法律で定められた割増賃金を支払わない場合、賃金の未払いとなり、労働基準法に違反し、罰金刑の対象ともなります(通常は事前に指導や是正勧告が実施されます)。
今月は割増賃金の計算方法について、見落とされがちな実務上の留意点をご紹介します。
1.割増賃金の種類と割増率
割増賃金は次の3種類です。
・時間外 ・・・1日8時間、週40時間超の勤務 ・・・25%以上
・休日 ・・・法定休日(週1日、4週4休)の勤務 ・・・35%以上
・深夜 ・・・22時~翌5時の勤務 ・・・25%以上※法定休日の勤務には時間外割増賃金は発生しません。
※平成22年4月からは月60時間超の時間外勤務の割増率は50%以上とされていますが、中小企業は当面猶予されています。
※労基法に定められた「変形労働時間制」を導入すると、1ヶ月または1年など所定の期間を平均して週40時間となる範囲で勤務スケジュールを組むことができ、その範囲では時間外・休日割増賃金は生じません。
2.割増賃金の単価は1時間あたり賃金額
① 割増賃金は1時間あたりの賃金額に、割増率と対象時間数を乗じて求めます。
② 1時間あたりの賃金は、対象となる賃金の合計額を月平均所定労働時間数で除して求めます。
③ 月平均所定労働時間数は、1日の所定労働時間数と年間の所定休日数から求めます。所定休日数が不明で、週(または週平均)所定労働時間が法律上の上限の40時間のときは、下記④の式で月平均所定労働時間数を求められます。
就業規則等の記載にもご留意ください。
①割増賃金の額
=1時間あたりの賃金の額×割増率×対象となる時間数②1時間あたりの賃金の額
=割増賃金の基礎となる賃金の合計額
÷月平均所定労働時間数③月平均所定労働時間数
=1日の所定労働時間×(365日-年間所定休日数)
÷12ヶ月④法定の上限の月平均所定労働時間数
=週40時間×年間52.14週÷12ヶ月≒173時間
3.割増賃金の計算から除外できる手当
割増賃金の計算では、基本給の以外の諸手当も一部の例外をのぞいて計算に含まれます。除外される例外的な手当は下記に限定されます。
家族手当/通勤手当/別居手当/
子女教育手当/住宅手当/臨時に支払われた賃金/
1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
実際に除外されるかどうかは名称でなく、支払方法など、実態によります。家族数、交通費・距離や家賃に比例して支給するものは除かれ、一律で支給されるときは除かれません。就業規則等の内容にもご留意ください。
4.精勤手当(皆勤手当等)は除外できる手当か
通常の1ヶ月毎の精勤手当等は、割増賃金の計算から除外されません。支給された月については、計算に含める必要があります(「最低賃金」の計算では逆に除外しますのでご注意ください)。
なお「1ヶ月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当」は、実態に応じ、賞与などに準ずるものとして除外されます。
5.歩合給(出来高給、業瀬給など)の割増計算
「売上げの○%、契約成立1件毎に○円」というように一定の成果に対して定められた金額を支払う歩合給などの賃金制度でも、法律で定められた割増賃金を支払う必要があります。この場合、1時間あたりの歩合給などの額をもとに、割増賃金を計算します。月払の場合の例は下記のとおりです。
【歩合給の割増賃金の額】
その月の歩合給の額÷その月の総労働時間数
×(法定の割増率※)×法定外、休日、深夜勤務の時間数※通常、時間外(休日)の割増計算には割増勤務の1時間分の単価を含め1.25(1.35)以上の割増率を乗じますが、歩合給等には単価はすでに含まれているため、それぞれ0.25(0.35)以上の割増率で問題ありません。
6.定額前払いの割増賃金を設定するとき
いわゆる定額残業代、固定残業代に対しては、裁判所の判断は年々、厳格化する傾向にあり、慎重な対応が求められています。
現在までの判例を検討しますと、次の①~③の条件について労使間で就業規則や労働契約書など書面での合意があり、実際に月々精算されているケースで、給与明細書上も精算の内訳が明白であれば、割増賃金の前払い分として計算から除外しうるものと考えられます。
①通常の賃金との額面上の区別が明確であること。
②何時間分のどの種類の割増賃金か明確であること。
③実際の割増賃金が前払分を超過した際は差額を支払うこと。
給与明細などでその内訳が明確であること。