【労務コラム】 海外勤務と労災特別加入、雇用保険・社会保険の取扱い 

 労災保険の「海外派遣者の特別加入制度」について、対象者や手続きについてご紹介します。
 記事後半では、海外勤務時の「雇用保険」「社会保険」の取り扱いについても簡単にご紹介します。

(1)海外出張と海外派遣の違いと労災保険

 「海外出張者」「海外派遣者」の違いにより、労災保険給付を受けられないことがあります。違いは勤務実態により総合的に判断されます。

ア.海外出張
単に勤務の場が海外にあるにすぎず、国内の会社等に所属し、その指揮に従って勤務するケースです。所属する国内の事業場の労災保険給付を受けられます。

「商談」「技術、仕様などの打ち合わせ」「市場調査、会議、視察、見学」「アフターサービス」「現地での突発的なトラブル対応」「技術習得等のため海外に赴く場合」等

イ.海外派遣
海外の会社等に所属し、その指揮に従って勤務するか、その役員等、使用者となるケースです。特別加入しなければ、労災保険給付を受けられません。

「海外関連会社への出向」「海外支店、営業所などへの転勤」「海外で行う据付工事、建設工事(有期事業)に従事する場合(統括責任者、工事監督署、一般作業員等)」等

(2)海外派遣者の労災保険特別加入制度

 労災保険は本来、国内の事業場に適用され、そこで勤務する人だけが給付対象となります。
海外で就労する人は通常は派遣先の国の災害補償制度の対象となりますが、派遣先の制度が未整備の場合もあるため、「特別加入制度」が設けられています。

(3)労災保険に特別加入できる海外派遣者とは

 下記ア~ウに該当する人は特別加入できます。
すでに海外の事業に派遣されている人も特別加入できますが、現地採用の人は海外派遣者でないため、加入できません。単なる留学を目的とした派遣のときも特別加入できませんのでご留意ください。

ア.海外に労働者として派遣される人
日本国内で有期事業以外の労働保険が成立している事業主から「海外支店、現地法人、工場、海外の提携先事業」に労働者として派遣される人。

イ.海外に事業主等として派遣される人
日本国内で有期事業以外の労働保険が成立している事業主から、海外で行われる中小規模の事業に事業主等として派遣される人。派遣される事業の規模は、国ごとに判断します。

【中小事業主等と認められる事業規模】
「金融業、保険業、不動産業、小売業」…50人以下
「卸売業、サービス業」…100人以下
「その他の事業」…300人以下

ウ.開発途上地域に対する技術協力の実施の事業(有期事業を除く)を行う団体から派遣されて、開発途上地域で行われている事業に従事する人 ※省略

(4)労災保険特別加入の手続き

 派遣元の会社等が、所定の申請書で所轄労働基準監督署長経由で所轄労働局長に届け出ます。
手続きでは、特別加入する人の業務の具体的な内容、地位、役職名および希望する給付基礎日額を届け出ます(変更や脱退についても届け出が必要です)。

ア.給付基礎日額とは
保険給付の基礎となる額で、申請により労働局長が決定します。3,500円から25,000円の間で500円~20,000円刻みで設定されており、保険料もこの額をもとに計算されます。

イ.労災保険給付の対象と種類
「労働者」として派遣される場合、国内と同様です。
「事業主等」として派遣される場合、通勤災害については国内の労働者と同様です。業務災害については一定の条件を満たす場合に保険給付が行われます。

(5)海外勤務するときの雇用保険

 国内の会社等から出張または派遣されて就労する場合に限って雇用保険被保険者となります。現地採用される場合は被保険者となりません。
以下、ア~エの4つのパターンに整理しました。「ア~ウは被保険者資格を継続、は喪失」となります。

ア.国内の適用事業の事業主に雇用されたまま、海外へ視察等のため出張して働く場合

イ.国内の適用事業の事業主に雇用されたまま、その事業主の海外の支社等に勤務する場合

ウ.国内の適用事業の事業主に雇用されたまま、その事業主の命により、一定期間海外の事業主の下で雇用される(在籍出向)場合

エ.国内の適用事業の事業主との雇用関係を終了させ、海外の企業に雇用される場合

(6)海外勤務するときの社会保険

 海外派遣者の社会保険(健康保険、介護保険、厚生年金保険)については以下の取扱いとなります。

ア.健康保険と厚生年金保険
国内の厚生年金保険適用事業所での雇用が継続したまま海外勤務する場合、出向元から給与の一部または全部が支払われているときは、原則として健康保険、厚生年金保険の加入は継続します。

イ.介護保険
介護保険は、国内に住所がある人にのみ適用されます。日本国内に住所を有さなくなったときは、届け出ることで保険料が免除されます。
ただし加入先が「健康保険組合」の場合、40歳から64歳の家族(健康保険被扶養者)が日本国内に居住のときは保険料が免除されない場合があります。