「懲戒権」の根拠と行使するときの制約

最近、企業の「懲戒制度」について人前でお話する機会がありました。
この「懲戒」制度、検証してみますと奥深い世界が広がっています。

今月の近況報告では「懲戒」の考え方や実務のポイントについて、判例や労働法学者の考え方を手短にまとめてみます。

 

①懲戒権の根拠

昭和50年代の最高裁の判断は、企業の側には、「企業の存立意義と円滑な事業運営のため、企業は社員に対して合理的で目的にかなった秩序を作り、維持する権限がある」としました。
一方、社員の側は、「労働契約に付随して企業秩序を遵守する義務」があるとされました。

 

②懲戒権が認められる理由

企業秩序維持のため、企業側が本来もっている手段には「損害賠償請求」「解雇」があります。
前者は損害の発生が前提のため対抗手段としては有効といえません。
後者は、労働法上規制されています。
この2つの手段に限定してしまうと、企業運営面からも社員保護の面からも妥当といえません。
この点から懲戒権が承認される、と考えることができます。(土田道夫「労働契約法」2008)

 

③懲戒権の行使に対する制約

懲戒権は労働契約や就業規則の根拠を必要とします。

また、行使する際は
企業秩序を実際に侵害したか、すくなくともその実質的なおそれがあること
処分が相当で、手続きも適正であること
という2つの要件を満たさなければ無効とされます(労働契約法)。

刑罰に似た制裁のため、「法的根拠のない懲戒は無効」「不遡及原則」「二重処分禁止」など、刑事法に類する厳格な規制のもとに置かれている点にも留意する必要があります。