給与締日、支払い日を変更するときの留意点

 会社が給与計算期間(締め日)や支払日を変更することで、労務管理業務の負荷を分散し、省力化できることがあります。
 具体的には、「業務区分や契約区分別にばらばらに設定された締め日・支払日を社内で統一するケース」や、「締め日と支払い日の間隔を長く確保する ケース」、「残業手当などの変動給のみ翌月払いとするケース」などが考えられます。
 今回は、給与締め日・支払い日を変更するときに留意すべきポイントをまとめました。

(1)賃金5原則との関係

 労働基準法では、賃金の支払い方法について5原則を定めています。
賃金は「通貨で」「直接労働者本人に」「全額を」「毎月1回以上」「一定の期日を決めて」支払わなければならない、というものです。
賃金支払日の変更も、この5原則を守る必要がありますので、「毎月払いの原則」より、毎月1日から末日までの間に支払日を最低1回、設定しなければなりません。
賃金支払い日は、この「毎月払いの原則」や労働協約に反しない限り、労働協約や就業規則によって自由に定め、変更することができるとされています(就業規則の変更は労基法に定める方法による必要があります。)

 一方、賃金締め日や支払いまでの期間についてはこのような規定はありません。
賃金締め切り期間は必ずしも月の初日から末日までとする必要はなく、また支払い期限も、必ずしもその月の賃金をその月のうちに払う必要はなく、不当に長い期間でない限り、ある程度の期間を経てから支払うこととさだめても問題ないものとされています。

 ※ 賃金5原則では、例外的なケースも想定されていますが、今回の記事では割愛させていただきます。

(2)労働条件の不利益変更にあたるか

 たとえば支払日を同じ月内の後ろの期日へと繰り下げる場合は、特に変更の当月についてはその分、社員に負担をかけることになります。
社員の生活への影響を避けるためには、単に法定の手続きにより就業規則を変更するだけでなく、前もって十分に社内で変更内容を説明し、合意形成されることが望ましいです。
ちなみに労働契約法では、就業規則による労働契約の内容の変更について、「使用者は、労働者との合意なく、就業規則の変更により、労働者の不利益 に労働契約の内容を変更することはできない。ただし次の場合は除く(9条)」とし、次の条件を列挙しています(10条)。ご参照ください。

【就業規則の変更で労働条件を変更するための前提条件】

イ.変更後の就業規則を労働者に周知すること。

ロ.変更が次の事情等からみて合理的であること。

①労働者の受ける不利益の程度
②労働条件の変更の必要性
③変更後の就業規則の内容の相当性
④労働組合等との交渉の状況

(3)その他の留意点

【経過措置について】

 賃金支払い日を繰り下げる場合には、例えば「賞与支払い月に変更する」「変更月に賃金の一部を前倒しで支給する」「数か月かけて支払日をスライドさせる」といった経過措置を実施し、社員負担を軽減する方法も考えられます。

【締め日のみ前倒しに】

 締め日のみ前倒しにする場合、変更月の給与をその分、日割計算するのであれば、社員の在籍中の通算賃金額に変更は生じません。その分、変更月の給与は減額されますので、支払日変更と同様の社員負担の軽減が必要と考えられます。

【支払日が休日のときの繰り上げ、繰り下げ】

 このほか、給与支払い日が休日の場合の支払日の繰り下げ、繰り上げも、どちらかを就業規則に定め、特定しておくことで賃金5原則の「一定期日払いの原則」に違反せず、問題はありません。
ただ、支払日を月末としている場合に「休日の場合の繰り下げ」を定めると支払いは翌月になってしまい、「毎月払いの原則」に違反することになってしまいますので、ご留意ください。