個別労働紛争解決制度 紛争調整委員会による「あっせん」とは?

 従業員個人と事業主の間で労働条件等について紛争が起きた場合、迅速で適正な解決を目的とする紛争調整員会の「あっせん」の制度を利用することができます。

 この制度は費用がかからず、裁判比べ手続きが迅速かつ簡便であり、従業員・事業主のどちらの側からも利用することができます。

 「あっせん」案には強制力はなく、また「あっせん」手続きへの参加も任意とされています。
 
 今回は紛争調整委員会のあっせん制度について概要をご紹介し、実際の利用状況や、労働審判制度との関係について解説します。

1.あっせん制度とは

 平成13(2001)年に施行された「個別労働紛争の解決の促進に関する法律」による紛争解決援助制度です。

 従業員個人と事業主の間で生じたトラブルについて、両者間に労働問題の専門家が入り、双方の主張の要点を確かめ、調整を行い、話し合いを促進することにより、紛争の解決を図ります。

 両者が求めた場合には、具体的な「あっせん案」を提示し、解決を援助します。

 利用料は無料です。

 あっせんにかかる日数は通常1日で、手続きは非公開であり、当事者のプライバシ―は保護されます。
 

2.あっせん制度を実施する機関

 行政の行うものでは「都道府県労働局の紛争調整委員会」がよく知られているほか、「都道府県の労働委員会または労政主観部局等」もあっせん制度を実施しています。

 このほか、法務大臣の認証等を前提に「弁護士会」や「社会保険労務士会」等の民間でもあっせん制度が実施されています。

3.あっせん制度を利用するメリット


 制度の利用料が無料で、手続きがシンプルであり、期間も1日で終了するため、訴訟や労働審判に比べ、コストが抑えられます。

 従業員本人と事業主の主張が一致していないものの、歩み寄る余地があると考えられるようなトラブルであって、双方が第三者である専門家のアドバイスを受けることに合意できるようなケースであれば、活用のメリットのある制度といえます。

 争われている金額が少額であるケースや、一方または双方が感情的になっている等、冷静な話合いが期待できないケース、どちらも専門知識や経験が不足し、妥当な落としどころを見つけられずにいるケース等が考えられます。

 ちなみに過去の解決金の実績を比較してみますと、(少し前ですが)2013年の資料では、賃金月額に換算した中央値(頻出値)は「都道府県労働局の紛争調整委員会によるあっせん制度で1.1ヶ月分」、「労働審判で4.4ヶ月分」、「民事訴訟の和解事案で6.8ヶ月分」であり、集計の元となった金額にばらつきはあるものの、少額に抑えられる傾向にあるといえます。(解決金の金額を同様に見ると「あっせんは156,400円」「労働審判は1,100,000円」「和解は2,301,357円」となります。)

 また同じ資料によれば、解決方法は「金銭解決」が96.6%を占めていました。
 
※参考資料「労働政策研究報告書 No.174 労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析」
 

4.あっせん制度の利用に向かないケース

 あっせん制度はあくまで話し合いによる柔軟な紛争解決を目指す制度であって、どちらか一方に軍配を上げるような(シロクロをつけるような)制度ではありません。

 どちらか一方または双方が譲歩の余地がないと考えているようなトラブルは、この制度の利用には向かないものと考えられます。
 

5.紛争調整委員会によるあっせん制度の流れと実績 

以下、最も一般的と思われる「都道府県労働局の紛争調整委員会によるあっせん」の流れと、昨年2018年の実績をご紹介します。

ア.あっせんの申請先

 労働基準監督署の総合労働相談コーナーか、都道府県労働局総務部企画室であっせん申請書を提出します。(従業員側、事業主側双方が利用可能)

 昨年の申請数は5,201件でした。うち従業員側が5,124件、会社側が76件、双方が1件でした。

イ.あっせんの委任

 申請を受けて、都道府県労働局長が、紛争調整委員会にあっせんを委任します。(紛争調整委員会は弁護士、大学教授、社会保険労務士などの労働問題の専門家を委員としています。)

ウ.あっせんの開始通知と参加意志の確認

 委任を受けて、紛争調整委員会から相手方に対し、あっせんの開始が文書で通知されます。

 同時にあっせんへの参加・不参加についても意思確認を求められます。

 参加の意思表示があれば、引き続きあっせん期日の調整等が行われます。

 不参加とする場合はその旨を申し出れば、あっせんは打ち切りとなります。申請者には労働審判など、他の紛争解決機関が紹介され、終了します。(あっせん手続きは終了し、不参加にペナルティ等はありません。紛争そのものは継続しますのでご留意ください。)

 昨年の実績では5,201件中、1,857件(36.5%)が不参加により打ち切りとなっています。

エ.あっせんの実施

  相手が参加する場合、あっせんの日時を調整の上、あっせんを実施します。

 あっせん当日は申請者と相手方はそれぞれ別のスペースで待機し、あっせん委員が待つ部屋に交互に呼ばれて、双方の主張の確認、意見調整、あっせん案の提示などが行われます。

 双方があっせん案に合意した場合、あっせん案は民法上の和解の効力を有します。この場合は解決した旨の合意書が作成されます。(合意書には秘密保持や清算条項等が盛り込まれます。)

 昨年の実績では、双方が参加したあっせん2,893件(申請中56.9%)のうち1,937件(同38.1%)で合意が成立しています。

オ.あっせんに参加するとき

 事前に意見書や証拠を提出することができます。あっせん委員に客観的に判断してもらえるよう、正確・簡潔に作成されることをお勧めします。

 またあっせん手続について、弁護士や社会保険労務士の利用か可能です。(特に会社側で助言や意見書作成、当日の同行等のサポートを受けるケースは少なくないものと思われます。)

6.あっせん制度の対象となる事案、ならない事案

 都道府県の紛争調整委員会のあっせんについて、厚労省ホームページに次のように紹介されています。

ア.制度の対象となる紛争

・解雇、雇止め、労働条件の不利益変更などの労働条件に関する紛争
・いじめ、嫌がらせなどの職場環境に関する紛争
・退職に伴う研修費用の返還、営業車など会社所有物の破損についての損害賠償をめぐる紛争
・会社分割による労働契約の承継、同業他社への就業禁止など労働契約に関する紛争ること。

イ.制度の対象とならない紛争

・労働組合と事業主の紛争や労働者間の紛争
・裁判で係争中である、または確定判決が出ているなど、他の制度において取り扱われている紛争
・労働組合と事業主との間で問題として取り上げられており、両者の間で自主的な解決を図るべく話し合いが進められている紛争など


 今回の事務所ニュースは以上のとおりです。あっせん制度に関して、当事務所では助言、書類作成、代理業務等の実績があります。記事内容など、詳細はお問い合わせください。(塩澤)